ニコラス・レイという一人の老監督、この監督の死が一つの現実として存在し、その一つの現実をフィクションとドキュメンタリーという二つの方法で撮影し、一つにまとめた映画です。
映画監督としては小津安二郎を尊敬し『東京画』というドキュメンタリー映画まで撮っているヴィム・ヴェンダースですが、フィルムという手段を使って映像化される彼の視線は小津安二郎のそれと同様、どこまでも静かで穏やかです。そんな彼の視線がこの『ニックスムービー・水上の稲妻』では、彼の親友である映画監督ニコラス・レイの死に向けられています。
この映画の中には『生(なま)の目には希望があるが、カメラを通してみるとそれが消える』という台詞があります。この台詞が表すとおり、この映画に映し出されているニコラス・レイの様子には生に対する希望などは微塵もありません。そこにあるのはただ死に向って日一日と確実に衰弱していく一人の老人の姿です。
映画にしろ小説にしろ、「死」というものを題材にした作品は数多くあると思います。しかし、この映画に描かれている「死」は、それらの作品が概して陥りがちな過剰な脚色や極端な悲劇性などが一切含まれておらず、ただの事実としての「死」であり、こういった描き方で人間の「死」を捉えた作品というのは思いのほか少ないように思います。
この映画を見て、大きく感情を揺すぶられるということはあまりないかもしれません。しかしこの映画はそういった感情の揺れなど感じなくても、それを見た人の心にずっと残り続ける映画であるように思います。

ヴィム・ヴェンダースの静かな視線