知る人ぞ知る古典的名作です。ビデオショップにも滅多においてありませんし、何せイギリス映画ですから仏映画や伊映画のように特集を組まれることもありません。しかし本編は見事な出来映えです。流石に古い作品なので画像は良くないですが、光と陰影の撮影が絶妙です。あえて斜めに据えられたカメラアングルが不安感を誘い、またそれによって作品がほぼ大使館内の室内劇なのにも関わらず空間的な広がりとアクションを感じさせる原因ともなっている訳です(これらはC.リード監督の別作、『第三の男』や『邪魔者は殺せ!』にも通じている手法)。
さて本編の物語ですが、これは子どもが特有に持っている正義感、純粋さを通して撮られた見事なニューロティック・サスペンスです。不倫と嫉妬、嘘と裏切り、疑念と妥協…等々、大人の世界は欺瞞に満ちていますが、主人公のフィリップは少年らしい清新さでそれに対峙し、そして苦しんだり怯えたり(ベインズ夫人の鬼の形相はどんなホラー映画よりもホラーしている)、そして幻滅を感じたりするのです。まさにそれは「The Fallen Idol:落ちた偶像」。子どもが必ずどこかで通過しなくてはならない純粋世界との決別。それは濁りを濁りのまま受容しなくてはならない海千山千の大人世界への扉を開けたことにも他ならない訳です。「秘密を持とう。」
この映画は一貫して少年の無垢なる視点で撮られていて本当に秀逸なのですが、ベインズやジュリー、または警官の視点から描いても面白い題材だと思います。G.グリーンの原作はまだ読んだことがないのですが、実は本当にベインズが夫人を階段から突き落としていたとしても面白い結末になったのではないか、なんていう想像も出来ます。テキスト性が高くて映画・脚本の教科書のような作品なのです。500 円ならちょっと買ってみようか、という感じになれますし、是非あらゆる世代に見てみて欲しい作品です。

少年の無垢な世界が大人の欺瞞と対峙する時 「秘密を持とう。」
イギリスらしいひねりの効いた佳作