ハードウェア技術者がソフトにも手を出してみようと考えてこの本を手にすると、おそらくがっかりするかも知れません。なぜなら、ソフトの作り方に関する情報はほとんどなく、おもに「組み込みソフトは、こういうハードを対象にして動くのです」という説明を中心にした本だからです。本文と後書きの内容から判断して、この本は、ハードの前提知識のないパソコンやサーバー向けのプログラマやSEに、組み込み分野の仕事に呼び込むためのものです。
細部には疑問がなくもありません。キー入力処理には、チャタリング除去とまぎらわしい別の説明があり、チャタリング除去については何の記載もない。電子楽器の説明は信号の処理順序が少し変。ですが許容範囲だと思います。唯一、ここはもっと掘り下げて書いて欲しかったなと私が思うのは、洗濯機の例です。重要なセンサーである蓋の開閉を検出するスイッチについて言及がありません。組み込みソフトは制御ソフトとも呼ばれ、しばしば、大きな動力を制御するために使われます。ソフトや回路のバグは、パソコンでは心配する必要のない人身事故につながることがあり、せっかく洗濯機という好例を持ってきたなら、そのへんの解説があればもっといい本になっていたでしょう。
とはいうものの、入門者向けに基本的な事項は一通り述べられていて、文体も平易で理解しやすく、これを読めば、組み込みソフトとは、どのような環境の下で動作するソフトなのか実感できると思います。
近年、組み込み系ソフトウェア技術者は非常に不足しています。パソコンやサーバーのソフトとはかなり勝手の違う部分もあり、このジャンルについて全く未経験な人が最初に目を通す本としては、かなりいいとお勧めできます。(すでに半田ごてを握って趣味で電子工作をやってますというレベルなら、読まなくてもいいかも知れません。)

組み込みソフト開発に興味を持ったパソコンのソフト技術者にお勧めします
組み込みシステム構築の基礎教育教科書に使える