聖母像から見た世界精神文化史
6人中、5人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
日本に到来した聖母像を軸に、人類の精神文化史を大胆に俯瞰した一冊。
近代世界システムの形成、宗教改革及び対抗宗教改革によるキリスト教のアジア・アメリカ布教というコンテキストの中で、日本に到来した聖母像の変容を単なる「周縁」「例外」的なものにとどめず、その「独自性」「創造性」を見出し、世界美術史、文化史上の正当な位置付けを試みる。
それは、キリスト教が世界的に展開する中で、その一神教独特の男性的な荒々しさを、地域ごとに由来をもつ穏やかな慈愛をもつ女神が「中和」したものであることを示し、さらには一神教以前の普遍的な大地母神信仰が深層にあることを論じている。
膨大な参考文献にもとづく壮大なテーマであるが、明快な論旨とちりばめられた図版とで、知的興奮を味わいながら読み進めることができる。読み終えた後は数千年規模の精神文化史の冒険を終えた充実感で胸いっぱいになることをお約束する。
偉才の息遣いが聞こえる
35人中、34人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
亡くなる直前までの3年間、毎週一回の講義(某新聞社系のカルチャー教室)をみっちり聞いた。「この講義は大学院レベルの内容です」と、誤字の混じるレジュメを配りながら、1時間半マグダラのマリア論、マニエリスム論、そしてカラヴァッジョへと高度なレクチャーが続いた。「大学への博士号取得論文を書いているところ」と時々、その一端にも触れた。「聖母がキリスト教布教の上で果たした役割は、日本では観音様が果した」「女はもともと強かった。魔術を持っているから」など、いちいち納得する内容だった。本書は論文とパソコンに残された講義録をベースに編まれた。何事にも力を抜かない人だった。論文執筆中、いきなり書斎から冥界に旅立った先生は、きっといまごろ、赤字直しに没頭しているに違いない。