貧民の帝都 (文春新書 655)

文藝春秋 [新書]
(2008-09)
EAN:9784166606559
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「貧民の帝都 (文春新書 655)」のカスタマーレビュー

100年前のホームレス
本書が取り上げているのは、主に明治、大正期の東京の貧民街のことだ。
しかし、現在でも貧困の根本は、100年前と何も変わっていないということが、本書を読むとよく分かる。

当時も今も、その原因は行き過ぎた「個人主義」の台頭と、「自己責任」の理論だ。

貧民屈で暮らすことも、ホームレスやネットカフェ難民となることも、
すべては「自己責任」という言葉のもとに、一個人の選択の結果とされてしまう。

しかし、そのような社会にした為政者の責任、行政の責任はないのだろうか。
一個人に社会構造は変えられない。
本当の責任は、国家にあるのではないだろうか。

待てよ、その国家を形成しているのは、私たち一人ひとりなのだ。
しかも、100年前と違い、今はより民主主義が浸透している。
つまり、私たち一人ひとりが変わらなければ、貧困はなくならないということか。
今まで見えなかった、見ようとしなかった歴史
4人中、3人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
どんな時代にも貧民と呼ばれる人はいるわけで、そういった人たちが明治維新後の混乱期や、それに続く激動の時代に存在しなかったわけがない。
だが、われわれの歴史観からは、それがすっぽりと抜け落ちてしまっている。

そんな光のあたらない、でも確かに存在した部分に光を当てた力作だ。

「貧民の帝都」というタイトルからは、貧民の生活ぶりなどについてのルポルタージュかと思われそうだが、実際にはあくまで為政者側から描かれており、「貧民救済の歴史」といった方が正確な内容だ。

江戸時代の貧民対策が意外なほどに充実していたことに驚かされる反面、明治維新後の混乱期にこういったシステムがどんどん破壊され、しかもそれを食い物に金儲けをしようとした人びとまでいたことには恐れ入ってしまう。

もちろん、成立直後の明治政府には、貧民救済に力を入れられなかったという事情もあるだろう。
だがその後もこの分野は常に後回しにされ、そして今に至っている。
明治から今まで、そのあたりはまったく変わっていないと思った。

あえて難点を言えば、正義感を振りかざしがちな文章が、正直ちょっと鼻に付くかも・・・。
これぞノブレス・オブリージ
8人中、6人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
「貧困」問題がクローズアップされる現代、鑑みる歴史資料はこの一冊に尽きます。要するに昔も今も満足な公的貧困対策としていいうるものはなく、遡ると江戸時代の七分金積立制度など民間の相互補助・互助の精神依頼の民間のボランティア精神に頼っていたということになる。

この書でも色々と「聖人」とされる人間が登場するが57年の長きにわたって養育院を守り育てることになった渋沢栄一氏にただただ頭がさがるとしかいいようがない。渋沢氏を日本の資本主義の生みの親としてだけ評価するのは完全に間違っている。これをノブレス・オブリージと言わずして何を言うのか。翻って公けが口にしてきた(そして現在も聞かれる)「自己責任」という言葉がいかに貧困対策を怠るだけの方便として使われてきたかがわかります。
”弱者に憐れみを”、わかっていても難しい…
7人中、6人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
明治以降の貧民救済事業を解説し、現在の福祉行政に失われたものを振り返る。
明治元年春の東京は無政府状態だったようで、江戸城が巨大な空き家になり乞食が入り込み夜鷹を連れ込んでいたとは驚き。
本書でわかりやすいのは、様々な救貧所や孤児院、貧民窟の所在地を現在の地図で解説していること。
三大貧民窟に加え、新宿南口の天龍寺町や願人坊主の巣窟、神田橋本町も図示してくれる。
救貧事業に半生をささげた渋沢栄一の偉大さも実感した。現代の財界人とは”格が違う”という月並みな言葉では形容できないような存在だ。
著者は、戦前の庶民には同情・憐れみ・惻隠の情が残っていたが、戦後、福祉を行政に丸投げすると人々は無関心・冷淡になった、手垢のついた人権とか平等主義を脱却して、仏教の”ほどこし”の文化を復活せよと説く。
共感するが、現在の価値観で当時を酷評したり、貧民の怨みつらみを語るのは若干鼻につく。
弱きものに向ける目
7人中、3人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
 ロシアの皇太子が来るというので、町に溢れる乞食や浮浪者をひとところに集める。これは明治の話だが、平成の世になっても、お上が「都市の美観」とかを理由にしてホームレスに対してやっていることが昔とあまりに変わっていないないのにあきれてしまう。
 この本は渋沢栄一設立の「養育院」の変遷を軸として明治から戦前までの東京の貧しき人々を取り上げているが、このままだとこういう事実は「歴史」から抹殺されてしまうという作者の危機感、そして弱きものに向ける暖かい視線が切々と伝わってくる。読んで何かを感じてほしい。
 
 

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