「光の帝国―常野物語 (集英社文庫)」のカスタマーレビュー
不思議な本
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初めて読んだ恩田陸の作品で、その後何冊か読んだ中でも最も好きな作品。
読みやすく、入り込みやすい。
不思議な現実感があって、本当にこういう人たちがいるように感じてしまう。
ちょっとした気分転換にオススメ
本家本元は『ポーの一族』(?)
6人中、4人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
作者は萩尾望都ファンで、とくに本書は『ポーの一族』に似ているという話を以前から聞いていて、一度読んでみたいと思っていましたが、今回読んでみて、成程、部分的には確かに似ていると思いました。
似ていると思ったのは「手紙」という話で、いろんな時代にあちらこちらの場所に出没するツル先生が、果たして同一人物だろうかという話ですが、これは『ポーの一族』の「ランプトンは語る」にそっくりです。
「いったい、日本中、どれだけの場所でこの先生は草履を履いて校長をしていたのだろう。」(「手紙」より)
「世界のどれほどの地域、どれほどの年代にわたって、偶然にもエドガー・ポーツネルという名が書類にちゃんと記されているのか?」(「ランプトンは語る」より)
この相似は決して偶然ではなく、作者は『SF Japan』06年秋号での萩尾望都との対談で、「私は『ポーの一族』のなかで、とりわけ「ランプトンは語る」が好きなんです。」と語っていることからも、「手紙」の設定や上記文章の相似は、「ランプトン〜」を意識してのものであるのが明らかです。
また、「常野(TOKONO)一族」の母音も「ポーの(POONO)一族」とまったく同じです。
ただ、似ているのはここまでで、後はそれほど似ているとの感じはありません。
本書の中核は表題作「光の帝国」で、これは超感動作で、この話だけでも本書を読む価値はあろうというものです。
逆に他の話は今ひとつというか、中途半端な感じのものが多いのですが、「常野物語」というシリーズのようなので、本書の中の話の大半が序章のようなもので、これから物語が膨らんでいくのでしょうね。何にしても、続きもまた読んでみたいシリーズです。
続きが読みたい
4人中、3人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
不思議な能力を持った常野の人々にまつわる連作短編集。とはいっても、一話一話に終わりはなく、次を感じさせる構成になっています。何でも記憶できる春田一家、先のことが分かる美那子、200年も校長をやっているツル先生、自分の”飛ぶ”力を思い出した亜希子、裏返すか裏返されるかの戦いを続ける瑛子。これら、常野一族の能力はなんのためにあるのか。これから彼らはどう生きていくのか。話はどんどん広がりそうで、この先ずっとシリーズ化してほしいなあと思うような作品でした。
タイトルにもなっている「光の帝国」の章では、悲しい出来事に思わず涙ぐんでしまいましたが、最後の「国道を降りて・・・」は、常に在野にあれとあちこちに散らばっていった常野の人々が、これから徐々に居場所を求めて集結しそうな気配を感じさせるとともに、過去と現在がつながる不思議な因縁に少し心があたたまりました。最後は清々しい終わり方で、私まで心穏やかな常野の人々とふれあったような不思議な感覚が残りました。
恩田陸の作品は、いつもジャンル分けができないなあと思いますが、これもそうですね。ファンタジーという一言ではくくれない、奥の深い作品なんです。何度も読み返したくなる、ステキな作品でした。
ひそやかに生き、つないできた特殊な能力を持つ常世の人々を描いた短編集
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一つ一つの物語は短くて、時系列に並んでいるわけではないので、人物とその能力、物語同士のつながりの把握のため二度読み直しました。世界の端々でそれぞれの物語や生活を持つ常野の血をひく人々が、知らず共通した何かに大きな仕事に向かっているという大きなくくりの中、彼らの壮絶で悲しい過去と謎が解き明かされてゆくのですが、わたしは表題の「光の帝国」と不思議な一家とこころある先生との交流があたたかい「大きな引き出し」が好きでした。それから、何十年も校長先生をしているツル先生が見殺し(ではないけれど)にしてしまった子供たちとの邂逅が描かれる「国道を降りて…」も。常野の人々は遠くの音を聞き分けたり、知識を際限なく覚えたり…といった特化した能力を持っているのですが、多くのファンタジーのように不死身でも、一般よりも丈夫なわけでもなく、ある意味では一般の人々と同じです。彼らは、静かに目立つことをせずに暮らしていても、しらず見出され、一部の目立つ能力のおかげで、ひどいめにあったり阻害される可能性を持ち続けています。常野の人々はいつのまにか、わたしの住む世界のある人々と次第にかさなってゆきました。すべてを読んだ後で、「光の帝国」の中の「お祈り」を読むとすべてが凝縮されたものを見たような気持ちになりました。苦渋の中の自己肯定の継続という難しいことをしてきた常野のこどもたちには頭がさがる思いでした。はじめは、「光の帝国」のあまりの辛さに安全さを感じないと書いたのだけれど、それをがんばって読んだあとには贈り物をもらった気持ちになりました。
いつかこの場所へ
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もしかしたら、自分の居場所はほかにあるのではないか。今ここではなく、どこか遠くに。子どもの頃、そんなファンタジーを持ったことはありはしないか。
なにか特別な力を与えられ、なにか特別な運命の元に呼ばれ、なにか特別な使命を背負い、なにか特別な仲間と出会い、なにか特別な私が生まれる。
しかし、少数派であるというだけで「特別」になってしまう側から見ると、迫害される悲しみがあるかもしれぬ。ただ当り前に生まれただけであるのに、特別なものを勝手に用意されてしまって。
そんな葛藤を織り込みながらも、すっきりと淡く優しく儚げに、幻が田舎の風景に描き足されていくと、とても魅力的な人々が透けて見えてくる。
常野の一族の伝説や噂話のような、遠くのほうに位置する物語から始まり、読み進むにつれて、少しずつ、どのような一族であるのかがわかるような順序で収められている。
読み終えて思う。光の帝国は子どもたちの帝国。子どもが子どもらしく、その子らしく過ごせる、そんな世界であるのではないか、と。
読み終えたときは、きっと少しきれいな顔になれるだろう。