著者・倉橋由美子が、「この小説、ここいら辺が面白いんだなあ」と紹介していく手つき、センス、目の付けどころ、何より文章がとてもいいので、「あ、それ、読んでみたいなあ」という本が何冊も出てきた書評集。以下に引いた文章のごとく、「言い得て妙だなあ」「上手いこと言うなあ」という件りが、あちこちにあります。
<その文章は食べ出すとやめられない駄菓子のようで、しかもそれが「本邦唯一」という味ですから、雑文の断片まで拾って読み尽くすまではやめられないのです。>(内田百けん『冥途・旅順入城式』)
<三島由紀夫は尋常ならざる作家で、その作品は強力な虚無、あるいは死に取り囲まれているために、直視すると目がつぶれそうな太陽にも似た輝きをもっています。その短編はどれも「悪」の濃度が高く、毒薬を口に含んで味わうような趣があります。読み終わってそれを吐き出すか、そのまま飲み下すかは読者の自由です。>(三島由紀夫『真夏の死』)
<上滑りせず、呼吸を乱すこともなく、変化する言葉とともに歩いていくことで時間がたって、読みはじめた時午前の日差しが障子に差していたのが小説が終わった時には遠い山に夕日が当たっていることに気づけば、読んでいた間は至福の時間だったというのも余計なことで、その時間は日差しの変化を感じながら呼吸している自分の時間につながります。>(吉田健一『金沢 酒宴』)
上記作品以外、本単行本に取り上げられた著者の偏愛作品(おすすめ本)は、次のとおり。
◎夏目漱石『夢十夜』 ◎森鴎外『灰燼/かのように』 ◎岡本綺堂『半七捕物帳』 ◎谷崎潤一郎『鍵・瘋癲老人日記』 ◎上田秋成「雨月物語」「春雨物語」 ◎中島敦『山月記 李陵』 ◎宮部みゆき『火車』 ◎杉浦日向子『百物語』 ◎蒲松齢『聊斎志異』 ◎『蘇東坡詩選』 ◎トーマス・マン『魔の山』 ◎『カフカ短篇集』 ◎ジュリアン・グラック『アルゴールの城にて』 ◎同『シルトの岸辺』 ◎カミュ『異邦人』 ◎コクトー『恐るべき子供たち』 ◎ジュリアン・グリーン『アドリエンヌ・ムジュラ』 ◎マルセル・シュオブ「架空の伝記」、ジョン・オーブリー「名士小伝」 ◎サマセット・モーム『コスモポリタンズ』 ◎ラヴゼイ『偽のデュー警部』 ◎ジェーン・オースティン『高慢と偏見』 ◎『サキ傑作集』 ◎パトリシア・ハイスミス『太陽がいっぱい』 ◎イーヴリン・ウォー「ピンフォールドの試練」 ◎ジェフリー・アーチャー『めざせダウニング街10番地』 ◎ロバート・ゴダード『リオノーラの肖像』 ◎イーヴリン・ウォー『ブライツヘッドふたたび』 ◎壺井栄『二十四の瞳』 ◎川端康成『山の音』 ◎太宰治『ヴィヨンの妻』 ◎吉田健一『怪奇な話』 ◎福永武彦『海市』 ◎北杜夫『楡家の人びと』 ◎澁澤龍彦『高丘親王航海記』

おすすめ本の玉手箱。思わず読んでみたくなる本がいっぱい
軽やかで深い偏屈書評集